二次創作活動を経て、
確固たる想いとともに創りあげる『SILFANY』の世界

昨年10月に東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催された、コミティア118において、創刊号としてwelcaさんによるサークル・ライルハウトより発表・頒布された小説誌・『SILFANY(シルファニー)』。商業・同人等にて活躍する6名の参加者と、主催者であるwelcaさんによるオリジナル小説が掲載され、本作のテーマである「新世界」を表現した魅力的な物語が集まりました……と、ここまでの紹介だと、いわゆる「オリジナル小説合同誌」として捉えてしまいそうですが、welcaさんによる新たな活動には、作品とそれを創るクリエイターがより映えるような仕掛けや図らい、読者に訴えかける明確な意思が込められていました。

welcaさんはこれまで、二次創作を中心に活動をされており、個人誌から合同誌の企画・主催等にて創作活動を続けてきました。主な活動を「小説執筆」としつつも、「作品をより魅力的に見えるにはどうしたらよいか」を常に考え、ときに同人誌の装丁やプロモーションサイトの制作、音楽制作(作詞・作曲)を手がけることも。コンセプトの設計からデザインに対する意識、そして作品の制作まで徹底され、そのすべてが徹底されています。

そんなwelcaさんによって、丁寧な設計・制作活動を経てスタートした『SILFANY』はどのような経緯で制作されたのか。そして、『SILFANY』を「単なる小説誌ではない」と思わせてくれるその秘密に迫りました。

ものづくりの動力源は純粋な好奇心と憤り

改めまして……はじめに、自己紹介をお願いします!はじめまして。普段は自主制作レーベル「ライルハウト」にて主にプランニングや小説執筆など、言葉に関わることをしております、welcaと申します。音楽とファッションとおもしろいことが好きです。よろしくお願いいたします!はじめに、welcaさんのこれまでの創作活動の歴史について、簡単に教えてください。2013年に小説を書き始め、welcaとして活動を始めました。その過程で自分のやりたいことを実現していくためにデザインやWeb、企画のことも勉強するようになりました。はじめは小説執筆が主な活動だったとのことですが、幅広い創作活動をするための動力源となる想いや考え方、目標などはあるのでしょうか?動力源は、純粋な「好奇心」と「憤り」ですね。なんだか物騒なことを言ってしまっておりますが、基本的には、「もしもそれがこの世界に存在したら」と想像してみた時に「ワクワクする気持ち」―これを誰より最初に自分が強く感じることのできるものを作るようにしています。
作っている自分でさえおもしろくないと思うようなものは、きっと他の方から見ても大しておもしろいものではないのではないかと私はですが思ってしまうので……。
「憤り」に関しては、何かを思いついたときに「これをどうにかしなくちゃいけない」「これが存在してないのはおかしいから絶対に作ってやる」という怒りに近い感情、それを強く燃やして作ることもあります。なるほどなるほど。あとは、自分の想像や理想に自分のスキルが全然追いついていないので少しでもそれに近づきたいという気持ちと、自分を見てくださっている方や関わってくださっている方に、おこがましいことこの上ないのですが、できれば「次はどんなものを作るんだろう?」と思って欲しくて、要するにワクワクしてほしいのですが、前の自分よりも少しでも前へ、常に挑戦し続けるようにしています。
私は企画モノの主宰をやらせていただくことも多いので、そんな時も最初にアイデアを出したり最終的な判断をしたりする主宰が、長期間なんの進歩もなくなんにもできなかったら格好つかないじゃないですか(笑)。「この人と一緒にやりたい」「一緒に制作してみたい」と、そう思っていただけるよう、まずは自分が率先して、常に進化し続けたいと思っています。

そういった創作に対する真摯な姿勢は、二次創作においてももちろん持たれていると思いますが、オリジナルジャンルでの活動を始めてみて、これまで主な活動としていた二次創作と異なるものや、意識の違いはありますか?ありますね。コスト感覚と、ブランディングの重要性でしょうか。まだ一度しかオリジナル作品を発表していない上、自分のブランディングがしっかりとできていないのでえらそうなことは何も言えないのですが……(笑)。あくまで個人的な考えですが、二次創作は基本的に「私の書く小説」が好きで見てくださっているのではなく、「私の書く○○(キャラクターやカップリング)」が好きで見てくださっているのだと思っています。そのため、キャラ設定や舞台設定も不要で、しかもそのキャラが好きな方がすでにいらっしゃるわけですから、あらかじめ見ていただける機会は一定数あるわけですよね。でも、オリジナルは身ひとつ腕ひとつで勝負していかなくてはならないわけです。そうなれば、二次創作と比較してオリジナルのコスト周りは必然的にシビアになりますし、他の作家さんと差別化された「私でなければならない理由」も制作内容、プロモーション等々含めてより重要になってくるのかなと。そのため、昨年オリジナルジャンルにてコミティアに初参加してから、コスト感覚とブランディングの重要性についてはかなり意識し直すようになりました。確かに、オリジナルジャンルはあらゆる面で自由度も高く、それゆえの難しさはあるかと思います……!コミティアへのサークル参加は昨年10月のコミティア118がはじめてだったとのことですが、「同人」の楽しさにはどんなものがあるとお考えでしょうか。同人における魅力は、自分の「好き」を発見・発信・発行できることでしょうか。それに伴い、イベント参加によって得られる楽しさは、誰かの「好き」に「制作物」というかたちで直接触れられることかなと思います。基本的に、同人は情熱が半端じゃないなと思っています。
私はwelcaとして活動を始めるまで同人というフィールドの存在を知らなかったので、初めて同人という世界に足を踏み入れた時は、いろいろなものがキラキラして見えました(笑)。

  • welcaさんによる小説本文の組版作業
    welcaさんは他クリエイターやサークルの組版作業を請け負うことも少なくない。商業作品と比べても劣らない品質を実現し、非常に読みやすい見栄えを作ってくれる。
  • ライルハウト ポートフォリオサイト
    welcaさんによるサークル・ライルハウトのポートフォリオサイト。これまで行ってきた自主制作や、数々のクリエイター・サークルの作品のデザインや組版・編集など、幅広い実績を見ることが出来る(写真は2017年5月時点のデザイン)。

welcaさんがクリエイターとして、目指すものは具体的にどんなものでしょうか?企画力を軸に、あらゆる隙間を埋めていける【プランナー】ですね。プランナーとしての基本的な仕事はしっかりと行い、その上で必要に応じて小説も書くし組版も作るしデザインもするしWebも作る、なんでも屋さんのようなイメージでしょうか。たとえば同人周りの制作なら、プランナーである主宰として漫画と小説の入り混じる合同誌を作りたい時、イラストはイラストレーターさんに、ロゴやカバーデザインなどの重要度の高いものは本職であるグラフィックデザイナーさんにお任せするとしたら、本文デザインは誰がするのでしょうか。小説部分の組版や使用書体選び、編集作業はどうするのでしょう。どれもこれも、本職の方にお任せし、自分は企画立案と運用だけに専念できれば良いですが、そういうわけにもいかないことが多いです。また普段の仕事であれば、たとえばwebサイトを作る時、制作経験・知識の豊富でないディレクターさんが無茶な仕事を持ってきて、制作現場が怒涛のデスマーチに発狂することもありますよね。怒涛のデスマーチ……welcaさんがよく口にするワードですね(笑)そんな時に、全体の制作進行を指揮管理するディレクターさんにも多少の制作経験があったり、デザインやサイトコーディングに対しての知識や意識があれば、デザイナーさんやクライアントさんとの狭間に立った時に「これはできない」「こう伝えた方がいい」など、様々なプラスの判断が可能になると思います。そのため、同人周りであっても仕事であっても、何かを作りたい場合には企画と制作の間、クライアントと受注側との間に、様々な「隙間」が生まれると思うんですね。そのため、知識はもちろん、実際に手を動かすという実務経験のある多角的なスキルを持ったプランナーになりたいと思っています。自分はもともと色々なものに興味があるタイプで、デザインもコーディングも紙のことも書体のことも、学ぶのが楽しくて仕方ないんです。昨今、何かに特化したスキルを持つ方同士がコラボして何かを作るという姿を目にすることが多く、一点集中型ではないことはかなりのコンプレックスでもあったのですが、今はもうそれを逆手にとって、より高い水準で様々な角度から企画や制作を打ちだせるプランナーを目指したいと考えています。

言葉や物語の持つ魅力を
伝えやすくするための手段として

ではここからは、『SILFANY』の話題へ。制作におけるコンセプト等があれば教えていただけますか?コンセプトは「変化を生み出すレーベル」です。制作に至ったきっかけは、文字書きさんがもっと注目される環境を作りたいということ、言葉や小説というものに対して、もっとスタイリッシュなイメージを持っていただきたいなという思いからですね。前者については、どうしても小説というのはパッと見ただけではイラストなどとは違い、その巧拙や自分の好みに合うものかどうかはわからないと思うんですね。
そのため、まず読む読まないの価値判断の時点で「これは読む価値のある小説かどうか」というところを、作品そのものの巧拙以外の部分で決められてしまうことが多いのではないかなと感じていて。知名度が低くてもおもしろいものを書かれる方はもちろんたくさんいらっしゃいますが、そういう方は前に出ることに関して比較的控えめな方が多く、存在を知られる機会が少ない印象があったので、そういった方々がもっと注目される環境を作りたいと思いました。
後者に関しては、私自身小説を書き、本を読むことを好みながらも、小説と聞くと長くてなんか文字小さくて頭良さそうで遠慮しがち……といったような勝手なイメージがどうしても頭の片隅にあってですね(笑)。
でも実際、言葉や物語の持つ力はシンプルでとてもうつくしいものだと思っているんです。だったら、その魅力をより伝えやすくするための手段として「SILFANY」という名前を冠した雑誌を作ろうと思いました。小説誌「SILFANY」では、短編のみの掲載、余白多めの組版、目に明るい白い本文用紙、文学っぽさよりも近未来的なデザイン、音楽との連携、別冊コラムの発信など、従来の小説誌よりも易しく、スタイリッシュなイメージを大切にしています。

SLFANY vol.012016年10月に発行された、『SILFANY vol.1』。創刊号のテーマとして掲げられた「新世界」、そしてその先を感じさせるイラストとデザインは、小説好きにはもちろん、文学作品に馴染みのなかった層にも圧倒的な存在感を残した。

創刊は昨年の10月でしたが、反響はいかがだったでしょうか。そうですね、少しぶっちゃけた話をさせていただきますと、思っていたよりお手にとっていただけて嬉しかったです。コミティアにはこの創刊時が初参加だったのですが、お知り合いの方々にコミティアは本当に売れないし小説ならなおさら、10部以下が参加サークルの平均売上、などなど聞いていたので……(笑)。反響としては、「こんな雑誌が欲しかったです」というお声や、別冊コラム(文字書きさんのための特集を組んだ別冊コラム誌)を見て小説を作ってみますというお声はとても嬉しかったですね。私個人としては、よかった点、改善すべき点、主宰としてそれはもうたくさんのことを感じました(笑)。今後に活かしていきたいなと思っています。『SILFANY』ではその号のテーマにもとづいた、魅力的な作家さまが生み出す多様な作品が集まっていますが、お呼びする作家さまにはどのような基準でオファーをしたりしていますか?基本的には「商業専業で書かれていない文字書きさん」をメインに、私が個人的に日々色々なジャンルの小説を読んでいく中でおもしろいなと思った方や、お知り合いの方におもしろい文章を書かれる方を勧めていただいたりして、お声掛けさせていただいております。お声掛けさせていただくにあたって、当然のことですがオンラインで公開されているご作品等はすべて拝見させていただいてお声掛けさせていただくかどうかを決めているるので、この「発掘する」というプロセスが個人的にですが非常に非常に大変で、毎回苦労しているのでおすすめの文字書きさんがいらしたらぜひご一報いただけますと幸いです……(笑)。先ほどちらっとお話に挙がりましたが、『SILFANY』には、より技術的な内容を備えるコラム冊子もあり、創刊号では「はじめての小説本」という題名で、小説の作り方について詳しく説明されていました。こういったコラムを付属として頒布していた意図等はなにかありますか?「付属していたこと」に関する意図としては、創刊号ということもあり、初回限定版のようなセットにしたかったためです。結果的には、雑誌とコラムとでターゲット層が異なる部分もあり、どちらか片方だけ欲しいという方もちらほらお見かけしていたので申し訳なく思ったりもしましたが……(笑)。
「コラムを作った」意図としては、長期的な目で見た時に『SILFANY』をただの「小説誌」という位置付けの媒体ではなく、「言葉に関わる新しい価値を発信するレーベル」としての位置付けにしたかったことですね。手広く攻めすぎかもしれないのですが、その分動ける範囲が広くなり、可能性が広がると考えています。

『SILFANY』の今後の展開や、制作をする上での心意気を教えてください。今後は『SILFANY』として引き続き雑誌と別冊コラムを発行しつつ、音楽とのコラボレーションや、グッズやファッション周りの制作・展開もしていく予定です。『SILFANY』の根幹には常に「変化」という概念があるので、小説誌というひとつの手法・媒体展開に留まらず、常に新しい価値や企画を生み出していける、そんなレーベルにしていきたいと考えています。がんばります(笑)。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。ライルハウトと『SILFANY』、ここからもっとおもしろいことができるようがんばっていきますので、どこかでお見かけいただくことがありましたらその際はぜひ、見てみていただけたら嬉しいです。ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました!

『SILFANY vol.1』付録
別冊コラム『はじめての小説本』

『SILFANY vol.1』本誌のセットとして頒布された、別冊コラム『はじめての小説本』。「小説を書くのは好きだけど、印刷や編集・組版等の知識がなくて……」という方にはぴったりの、本を全く作ったことのない人や、まだ勉強を始めていないという人に向けたもの。

その内容は、業界では当たり前のように使われる専門用語や意味を詳しく解説していたり、様々なサイズに合わせた組版のサンプルやフォントに関するもの、同人作家にぴったりの印刷所の紹介など、初心者には嬉しいコンテンツが盛りだくさんとなっている。